フランス語を学ぶ方が大体最初の方に学ぶこの「J’aime」という表現。その後に動詞の不定詞(要するに原形のこと)を持って来れば「~することが好きです」、名詞を持って来れば「~が好きです」と言えます。それだけのシンプルな話のように思えますが、よくよく見てみると意外と奥深いので、そこをちょっと深堀してみましょう。
J’aime + 定冠詞 + 名詞
「~が好きです」と言う場合、名詞を後ろに持ってきますが、その名詞には「le, la, les」の定冠詞を付けます。不定冠詞、部分冠詞がつくことはありません!例外もないので楽そうですが、じゃあその「le」「la」「les」のどれを使うか!?というところが結構ややこしいのです。
この3つは定冠詞で、「le」は男性単数、「la」は女性単数、「les」は男女関わらず複数の名詞にくっつきます。で、この「J’aime」という文章の場合、どの定冠詞を使うかは、➀まずその名詞が数えられるものか、➁数えられないなら男性名詞か女性名詞か、という順番で判断をします。
数えられるか・数えられないか
大体よくある説明が「液体などは数えられないですよね、あとはお肉も数えられないものとされます」というようなことです。水はコップに入れたら1杯、浴槽に入れたらお風呂1回分と、入れ物によって単位が変わるので、それ自体を数えられるとは言えません。ワインはボトルに入ってるから数えられそうですが、確かにボトルを注文したい時は数えられるのですが、「ワインが好き」という時にボトルに入っているという前提で話すことはできません。ワインというものはやっぱり液体でボトルに入れるか樽に入れるかグラスに入れるかで単位が変わるので、数えられないものです。
液体に近いのですが、たとえばチョコレートも数えられません。板にしたり、ブロックにしたり、どの入れ物にいれて固めるかで単位が変わります。もし、チョコレートではなく、板チョコというものがすきだ!と言いたい場合は、板チョコは大きさや厚さの大小はありますが、「板」という単位があるので、数えられるものとして扱うことができます。(ちなみに板チョコはtablette du chocolat) トリュフも、一口サイズで成形したものがトリュフとなりますので、数えられるわけです。トリュフの大きさに大小の差はあっても、それはじゃがいもにも1つずつに大小があるのと同じなので数えられるかどうかには関係ありません。液体に近い関連だと、アイスも数えられない方に入ります。
また液体に近いもので、粉状・粒状のものも数えられないとされます。例えばご飯とは、数えられるご飯粒が集まったものです。「ご飯がすき」と言いたい時、「ご飯の粒たちが好き」というよりも、「ご飯の粒の集合である、ご飯というものが好き」の方が言いたいことと近いと思います。この場合、粒の集合体も単位を持たないものとして不可算名詞になります。ただ、ご飯の粒そのものの造形美に魅せられた人ならば「粒」という単語を使って複数形で「ご飯の粒が好き」と言うことは可能です。その他、小麦粉とか砂とかもやっぱり数えられないものとなります。
パスタは複数形で扱われます。ご飯が数えられないならパスタも数えられなさそうですが、そんなことはありません。これはパスタを意味する「pâte」という単語が単数形「la pâte」だと小麦粉由来の生地のことを表すことも関係していると思います。単数と複数で意味が変わるわけです。なので、フランス語では「可算名詞」「不可算名詞」という考え方はあまりされません。数えられる時もあれば数えられないときもあるからです。
その代表が魚です。「J’aime les poissons」「J’aime le possion」は両方正しい文章ですが、前者が動物として魚が好きだと言っているのに対し、後者は食べるお肉として魚が好きだと言っています。魚はもちろん一匹二匹と数えられますが、捌かれて例えばお刺身なんかになれば、どこまでが一匹かという線引きができなくなります。これが「お肉は数えられないものとされる」の意味ですね。なので、犬が好きと言いたい時に「J’aime le chien」と言ってしまうと「食べ物として好きなのか!」と思われてしまうので要注意です。
概念・総称は数えられない
ものの名前の場合は、単位があるかないかで数えられるかどうか判断できました。次に、所謂「概念」も数えられないものとなります。ここで言う概念とは、例えばスポーツというもの自体、それからスポーツの中でもテニス、野球など、野球が複数個あるというのはおかしいので、数えられないものとなります。それから音楽というものも数えられません。楽曲はたくさんありますが、音楽というのもはひとつです。「la musique」は数えられないけど、「les chansons」は数えられます。また、ジャズ、ロック、クラシックなどジャンルも同じく数えられないとされます。また映画も映画というものとして考えるので数えられません。映画の作品(les films)はたくさんありますが、ここでは映画という娯楽ジャンル(le cinéma)の話なので、数えられないとします。詩も「la poésie」は詩というジャンルを表すので数えませんが、「les poèmes」は一篇ずつの詩それ自体のことを表すので複数形で言えます。「J’aime les poèmes de Rimbaud」(わたしはランボーの詩がすきだ)などですね。
また、「山が好きだ」と言いたい時、山とは数えられそうなので複数形でいきたい気もしますが、こういう場合は「山というものが好きだ」となります。総称として「la montagne」を捉えるわけです。
その他、「フランス語」「自由」「田舎」「友情」なども概念として数えられないものとなります。
人名・地名は冠詞なし
最後に余談ですが、もちろん人名や地名には冠詞はいりません。「J’aime Paul」「J’aime Paris」などですね。国名は性別の与えられている一般名詞となりますので「J’aime la France」です。ただ、たまに地名にもともと冠詞の付いているものもありますので(例えばカイロは「le Caire」)その時はそれに従って冠詞をつけたまま言います。
フランス語は部分冠詞という食べ物や飲み物につけがちなやっかいな冠詞がありますが、それをうまく使うためにも、以上の「数えられるか・数えられないか」を見極める力が重要となります。
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