『谷間に眠る者』ランボー

留学していた時に、ある先生が「好きな詩なのよ」と紹介してくれた詩です。とってもとっても素敵な先生で、ずっと印象に残っている方。そんな先生が好きな詩なので、この詩もやっぱり印象に残っています。静かで暖かく、冷たく、悲しい詩です。


Le dormeur du val
Arthur Rimbaud

C’est un trou de verdure où chante une rivière,
草木の中に水の流れる空洞がある
Accrochant follement aux herbes des haillons
銀色に光るぼろきれを草にかけるようだ
D’argent ; où le soleil, de la montagne fière,
太陽は崇高な山から光り輝く
Luit : c’est un petit val qui mousse de rayons.
そこは光がみなぎる小さな谷間

Un soldat jeune, bouche ouverte, tête nue,
若い兵がひとり、口を開けたまま、何も被らず
Et la nuque baignant dans le frais cresson bleu,
青くみずみずしいクレソンの葉の中にうなじを浸し
Dort ; il est étendu dans l’herbe, sous la nue,
眠っている 雲の下、草の上の
Pâle dans son lit vert où la lumière pleut.
光が降り注ぐみどりのベッドに、青ざめたままで

Les pieds dans les glaïeuls, il dort. Souriant comme
彼は眠る、両足はグラジオラスの中
Sourirait un enfant malade, il fait un somme :
病める子どものように笑いながら、ひと眠りしている
Nature, berce-le chaudement : il a froid.
自然よ、彼を温め寝かしつけてくれ 彼は寒いのだ

Les parfums ne font pas frissonner sa narine ;
香りが彼の鼻を震えさせることはない
Il dort dans le soleil, la main sur sa poitrine,
彼は太陽の下静かに眠っている、胸に片手を置いたまま
Tranquille. Il a deux trous rouges au côté droit.
彼の右わき腹にはふたつの赤い穴が開いている


新潮文庫の堀口大學訳のランボー詩集の彼の訳を少し参考にしながら、フランス語の意味がとれることを重視して訳してみました。堀口大學の訳はもっと詩的で美しいです。でも、中原中也の訳の方が元の雰囲気を尊重している気がするかな。

1段落目の自然の描写、そして2段落目で登場する若い兵士。2段落目の最後の「Pâle」から、少し様子がおかしいことに気付きます。作者は「病める子どものように笑う」寒がっている彼を温めてくれと、自然に頼みます。自然が暖かい語彙で描写されている中で、冷静に若い兵士の様子が描かれ、最後に彼の血に染まったふたつの赤い穴について言及されて終わります。一貫して静かに語られる様子が美しいです。

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